眠れぬ夜のために~ゴルトベルク変奏曲

来たる2021年1月30日。私は暦がひと周りする「還暦」(満60歳=61歳)を迎えます。私は年齢を重ねた節目のその時期にJ.S.バッハの名曲「ゴルトベルク変奏曲」を演奏したいと、何年も前から心のうちに温めてまいりました。

そして還暦には若干早い2020年の末から、ついに「ゴルトベルク変奏曲」を演奏する《とき》が、私の人生に到来しそうで、ワクワクしています。

2017年には、思いがけず「意識不明の4日間」を経験した私にとって、2020年のこの《とき》と対峙することは、生命を確かめる感無量のできごとです。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)は、「2段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」というタイトルでアリアと変奏曲を作曲しました。
演奏時間は、約60分〜100分の大曲です。その作品を、J.S.バッハの弟子ヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルク(1727~1756)が、不眠とたたかっていたヘルマン・カール・フォン・カイザーリンク伯爵のために演奏した、ということから、「ゴルトベルク変奏曲」と呼ばれるようになりました。

J.S.バッハが鍵盤楽器の為に作曲した作品ですので、主にチェンバロやピアノで演奏されますが、難易度は非常に高く、作曲された当時からおそらく限られた奏者しか演奏できなかったことでしょう。

J.S.バッハの作品は、「フーガの技法」などにみられるように、演奏楽器を特定しない作品がいくつか存在しています。この「ゴルトベルク変奏曲」も多声部で書かれていますので、様々な楽器や編成で演奏することが可能です。

2020年。私はヴァイオリニスト、ドミトリー・シトコヴェツキ(b.1954)が編んだ「弦楽三重奏版」をとりあげます。ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロの3つの弦楽器が、絶妙なアンサンブルで歩みを進めます。

曲は、「アリア」→「30曲の変奏曲」→「アリア」の順で構成されています。「30の変奏曲」は、各々前半と後半に分かれてそれぞれにリピート(繰り返し)記号が記されているため、譜面の倍の長さを演奏することになります。どのように「繰り返す」のかを考えるのはとても愉しいことです。

「ゴルトベルク変奏曲」には、J.S.バッハの”隠し味”が様々なところにちりばめられています。音の数、小節数の統一や、シンメトリーの構造、世俗的な民謡を忍ばせるなど、それらは実にまじめな遊び心をもって、ユーモラスに仕掛けられています。

作品は、最初と最後に2度演奏される「アリア」と30曲の変奏曲の全32曲から成っており、主題である「アリア」は32小節で書かれています。
また、各変奏曲の終結部と次の曲の冒頭部分は、音程などの連携で見事に橋渡しされてゆきます。きっと眠くならずに、お楽しみ頂けることでしょう。